第110回 サブジェクト指向と順八逆六
すでにあるものを書くな。ないものを書くんだ。知っていることを書くんじゃない。知らないことを書け。こんにちは、大島雅己です。
和歌、俳句の稽古を通して感じたことの一つは、「最小限の言葉で無限の宇宙を表現する美しさ、すばらしさ」ということです(参考:第32回「盆栽とメルロ・ポンティ)。この話をもう少し深く掘り下げてみます。
いまここにコップが一つあるとして、それを、離れた場所にいる他人に伝える時、「コップ」という言葉を使った瞬間に世界は限定されてしまい、何も発展せずに終わります。しかし、コップと呼ばれたその物体は、実は無限の属性を持っているはずです。「ガラスの塊」「円筒」「光を反射させるもの」「数100gの重量を持つもの」「転がせるもの」「一時的に空気をためられるもの」「容器」「楽器」「凶器」等など。
ITの世界で言うと、例えばデータウェアハウス等というものがあります。ざくっと言えば、何かのデータを大量に保管してある倉庫であり、必要な人が必要に応じて好きなように使えるというものです。使い方を限定していないのです。いつどんな必要が発生しても対応できるという汎用性、多様性を持つものです。必要な機能に限定されたものをたくさん作るより、結局こちらの方がシンプルなのです。
いま我々が使うドレミファソラシドは音程の幅が一定です。だからあらゆる調に対応できます。でも周波数の観点でいうと微妙にずれています。それをあえてならして汎用性を持たせているのです。この平均律という大発見が世界の音楽史に革命を起こしたのです。
<今日の本歌>
中山康樹「マイルスに訊け!」