第1058回 ユーダイモニアと世界測地系
いいえ、あなた、私は欲しいものはないのよ(太田裕美『木綿のハンカチーフ』)。こんにちは、スパイラル研究所の大島雅生です。
生活の中で幸福を感じる瞬間は、一日の仕事が終はつて台所の片隅でビールをぐいつと飲み干す時、などと人が言ふのを聞くとなんだかほつこりと嬉しくなります。さうさうさうですよねと合ひの手を入れながら一杯ご相伴にあづかりたくならうといふものです。
実際のところ、それ以上に幸せなことが他にあるかどうか考へても大したものは見つからないし、あるとしてもその幸せ度は似たり寄つたりだと感じます。
何が幸せかは本人の中の基準でしか測れません。高級リゾート地のサンセット・ビーチで豪勢なトロピカル・カクテルをグラスに揺蕩はせるのが幸せといふものだと仰る人もゐるかもしれませんが、私にとつては何の魅力もないことです。
どーんと派手なことをしやうとか思ひ切つて金を使はうなどといふ考へ方は単なる一例であつて、もちろんそこに幸せを感じる人からすれば価値あることなのでせうが、さうでない人も大勢ゐることを認識すべきです。
一番問題なのは、そのやうな基準を持たずになんとなく幸せを規定してしまふことでせう。
<今日の一唱>
太田裕美『木綿のハンカチーフ』