第1029回 クロノスと躍度
走るスピードを速めれば速めるほど、世界はゆつくり流れ、全てがはつきり見えるんだ(映画『フォードVSフェラーリ』)。こんにちは、スパイラル研究所の大島雅己です。
マラソンと言ひ競馬と言ひF1と言ひ、人は誰よりも速く走ることにロマンを感じるものなのでせうか。私は殆ど興味がないのですが、F1などの時速200kmとか300kmで走る感覚とは一体どんなものなのかと想像すると生きた心地がしません。しかし好きな人にとつては命を賭すほどの魅力のあるものなのでせう。
自分が速く動けば、それだけ周囲の動きは緩慢に感じるやうです。それはさうですね。新幹線の窓から外を見れば、自転車で走つてゐる人など止まつてゐるかのやうです。相対速度といふものですね。
さういへば筒井康隆氏の『お助け』といふ小説を思ひ出しました。宇宙航空士の訓練で加速実験を受け続けたことで通常の時間の流れから逸脱し世界が止まつたやうに感じてしまふ話です。
生活の中でも、たとへば楽器を演奏する時、高速のフレーズを弾く時は逆にテンポの感じ方をゆつくり取る必要があります。急ぐ時こそゆつくり落ち着くべきだといふことなのでせう。急がば回れとはこのことです。
ITプロジェクトの現場でも、急がねばならない時こそ全体をゆつたりと見渡すべきなのです。
<今日の一唱>
ジェームズ・マンゴールド監督『フォードVSフェラーリ』