第1410回 アシュケナジムと五種不翻
空高くとりはらはれた鈴緒あり。こんにちは、スパイラル研究所の大島雅生です。
母国語でない言語との付き合い方は本当に難しいと感じる日々、マルチリンガルの脳の働きはどうなっているのか理解できません。一番強く感じるのは、言語と思考の関係です。例えば日本語と英語とでは言語の構造も発音もまったく異なりますが、その背景にはそもそもの思考回路のルールが別モノだという事情があるはずです。
それは元をたどれば文化風土や歴史感などの違いに辿り着くのかもしれませんが、ある言語を話す時にはその国や母体に根差した思考回路が働くはずなので、二か国語を話す場合は思考回路そのものを二重に稼働させてそれを交互に切り替えるという目まぐるしい作業を脳内で行っていることになり、凡人からするととんでもない神業としか思えないのです。
卑近な例で言えば、日本語で「ぼく」「私」という時と、英語で”I”という時の心情や感覚は既に違うはずなのです。多言語を操るのは、二つ以上の思考回路を、類推して並べて比較して分析する能力が要求されることなのであり、これからの世界を生きる上ではきわめて重要なものなのかもしれません。
そういえば翻訳を扱った『日本地球ことば教える学部』という傑作SF小説がありますね。ここで教えられる日本語はめちゃくちゃだけれども決して間違っているとも言えない。地球外生命体が日本語を話すならこうなるのが自然だとすら思えてきます。日本語利用者である自分が日本語をどう捉えているかを問われる怪作です。
<今日の一唱>
筒井康隆『日本地球ことば教える学部』