第1391回 手車と視空間スケッチパッド
ふゆ眠りこそ暁を覚えざる。こんにちは、スパイラル研究所の大島雅生です。
音楽に携わっていると、本番とリハーサルという区分けの違いがあります。演奏会とか発表会とかライブといった、人前で技能を披露するのが本番であり、それに向けて練習を重ねるのがリハーサルですが、両者の関係は地続きのようでいて全く別モノでもあり、ハレとケのように相反するようでありながら表裏一体の関係でもあります。
単純に考えると「本番でうまく演奏できるようにリハーサルで稽古を繰り返す」「リハーサルで技能を高めて本番で頂点に到達させる」と意識しそうですが、これは間違ってはいないまでも、そう考えない方がよさそうです。リハーサルと本番は全く別のものであり、意識の置き方も異なるのです。
リハーサルでは技術を身に着けるため徹底的に基礎を学び実践を重ねて、失敗をくり返してはだんだん克服していくことを目的とします。その心がけは反語的に言えば「いかにうまく失敗するか」と言えるかもしれません。もちろん失敗がゼロになれば理想なのでしょうが、そもそもこれが成功だという100点の回答があるわけではなく、ああこうするとこんな失敗をするのだなという学びを繰り返すことでだんだんその反省を研ぎ澄ましていくための期間、とすべきなのです。
一方で本番とは、演奏会をいかに楽しむか、その場をどう盛り上げるか、観客をどう歓待するかに腐心すべきもので、練習で学んだ基礎や積み重ねてきたものはすべて捨てて忘れ去ってよいのです。間違ってもこれを逆にとらえて、リハーサルを気楽にこなして本番を真剣に全うするような心構えではまずうまくいかないはずです。
そういえば世阿弥は「命には終りあり、能には果てあるべからず」と言っていますね。リハーサルは果てしなく続くのでしょう。
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<今日の一唱>
世阿弥『花鏡』