第1042回 ヤコブソン器官と百家争鳴

色よりも香こそあはれと思ほゆれ誰が袖触ふれし宿の梅ぞも(読人知らず)。こんにちは、スパイラル研究所の大島雅己です。

色は目で愛でるもの、香は鼻で嗅ぐことでかぐわしく感じるものです。どちらも感覚に訴へる要素でありながら全く別の働きを起こします。

梅の花ひとつとつてみても、何もしてゐないやうに見えて多くの事を周囲に発してゐるのだとわかります。ある時はその色彩の妖艶さに曵かれ、ある時はその芳香の馥郁さに魅せられる。

さらに近寄つてみれば、敏活な生命の息吹が聞こえるかもしれないし、花弁に手を触れてみれば繊細な肌理に恍惚を覚え、口に入れればその福々しい後味に感動を催すこともあるでせう。

そしてそれは、十人ゐれば十人が違ふ思ひを抱くのです。一輪の梅はただただ凛然と自分を生きてゐるだけでも、周囲には千差万別の情報が伝はり、千種万様の価値を与へるわけです。

情報にもモノにも人にもたくさんの見方、感じ方、味はひ方があるはづなのに、現代はすべてが使ひ捨てにされるやうな時代です。この風潮は由々しきものです。

(A面へ)

<今日の一唱>
『古今和歌集』巻第一33番

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