第1011回 切られ与三郎とファイナルカーニバル
「粋な黒塀、見越しの松に、婀娜な姿の洗ひ髪」(春日八郎『お富さん』)。こんにちは、スパイラル研究所の大島雅己です。
「婀娜」とは難しい字ですね。アダです。色つぽく艶のある様子とでも言ひませうか。いよつ姉さん婀娜だねなどと日常会話で使ふことはまづありませんが、なかなかよい言葉です。「粋」もさうさう口にするものではなく、時々ニュースなどで「粋なはからひ」などと聞くことがある程度ですが、この字は白川静先生の解説によれば米偏に卒で精米を表し、「雑」に相対するものださうで、純粋さのことらしい。さつぱりと潔い感じでせうか。
セクシー発言ではありませんが、かういつた、色気とか艶つぽさとか、流麗さとか雅な感じとか、乙だとか瀟洒なイメージは、心の中で常に大事にしてゐるものです。具体的にかういふことだと説明しにくい概念ですが、自分の中にはそれなりの基準があつて、物事の判断の最終地点でどちらか迷つた時はどちらがより婀娜で粋かを考へます。
IT現場でもこのやうな言葉を持ち出すことはなくても、人の心を打つ、感情に訴へかける品の良さみたいなものはどこかに現れると思つてゐます。
<今日の一唱>
春日八郎『お富さん』