第978回 機関リポジトリと取得時効
鐘が鳴らうと日が暮れやうと月日は流れITは残る。こんにちは、スパイラル研究所の大島雅己です。
時間と共に消えてゆくものと、残るものがあります。しかしよく考へると、消えるといふのは変な話です。存在してゐたものがなくなつてしまふとはどういふことでせう。たとへば火で燃やしたものだつて消えるわけではなく化学反応によつて炭や二酸化炭素に姿を変へただけです。消しゴムで鉛筆の文字が消えるのはカスの中に取り込まれたのであり消失したわけではない。とすると、物理的に形を持つものは本当の意味で消えることはないのだと思へてきます。
一方で、残るとはどういふことか。同じ姿形を保つたままであり続けるものとはどんなものでせう。あへて特殊な環境に置かれた場合でない限り、普通に存在するモノであれば空気や水分や温度などの影響を受けて何らかの風化なり劣化などの反応を起こすはずです。全く変化を起こさないとすればそれは世界との繋がりが断絶されてゐるのだからつまり世界に存在しないのと同じことになります。
結局この現実世界では、消えてゆくものにも残り続けるものにも、さう簡単にはお目にかかれないことになります。この常識に当てはまらないのは、物理的でないもの、つまり、概念とか観念とか精神といつたもの、ざつくり言へば情報です。これは一瞬で跡形もなく消えることもあれば、何百年何千年と残り続けることもあります。IT現場とは、これらを引つくるめて扱う不思議な世界だといふことでせうか。
<今日の本歌>
アポリネール『ミラボー橋』堀口大學訳