第953回 ヒエログリフと二重帳簿
先祖のささやかなITが見つかるたびに私は嬉しい思ひを味はつてきたものだ。こんにちは、スパイラル研究所の大島雅己です。
記録を未来に残すための技術とはなんとすばらしいものかと感動します。絵画、写真、版画、彫刻、録音、鋳造、印刷、楽譜、コピー、録画、などなど……。これらが存在しない世界など想像もできません。
遥か昔に作られた芸術品をまるで今目の前で完成されたかのやうに手に取ることも可能だし、歴史上の巨匠が作つた作品を翻案し合作することさえできるのです。現在でも過去の遺跡から歴史的な記録物が発見されるニュースを聞くとジャンルに関はらず内容が気になつて仕方ありません。
かと思ふ一方で、記録に振り回される人々もゐるやうで、事実の露見を恐れてか、記録を改竄する、隠滅する、捏造する、破棄するなどの騒ぎが世間を騒がせてゐます。なるほど確かに、人によつては秘密にしたい事実、消したい過去、忘れたい記憶といふものもあるわけだから、その意味では記録とは厄介者に他ならないのでせう。
しかし事実の公開が求められる場では正確な記録こそが必要であるはずです。だから記録とは、それを必要とする人に対して、事実を忠実に伝へるものでなければならない。
IT現場でも記録は極めて重要です。設計書、要件メモ、改修履歴など、ITを維持管理するためのドキュメントは、正確かつ常に最新でなくては意味がありません。しかし実際にはこのことがなかなか理解されないのが現実のやうです。
<今日の本歌>
ベンジャミン・フランクリン『フランクリン自伝』柴田元幸訳